動物にとって“眠る”ことは“食べる”のと同じくらい重要です。野生動物は“食べて”“寝る”ために全エネルギーを傾けています(その先には“繁殖”という最終目標があります)。ペットだって同じ事。「安心して熟睡できる環境」が整っていないと健康で幸せな生涯を送ることができません。
■野生動物の寿命が短いのは寝ていられないから
野生動物は、起きている間は、食物を確保するためと安心して体を休める場所探しのためにその体力のすべてを使っています。一見安心して過ごせるように見える巣穴や木の上でも油断することはありません。一瞬の油断が命取りになるからです。
野生の生き物は熟睡することが無いといって過言ではありません。費した分を睡眠によって回復できない……まさに身を削って生きています。そのため、心身の消費が激しく長生きをすることが難しいのです。
■健康を保つためには睡眠が必要
動物にとって睡眠は重要な時間です。犬が人と暮らすようになって寿命が大幅に延びたのは、安定した食事と良質な睡眠を取れるようなったことが大きいといえます。
○寝ている間に心身ともに回復
眠っている間に、身体を健全に保つためのホルモンが生成され、破壊された細胞が回復します。
記憶量には限界があるので寝ている間に整理整頓が行われます。必要なものといらないものに分けられて、必要なものだけが経験として定着します
○睡眠には2種類ある
睡眠には「深い眠り・ノンレム睡眠」と「浅い眠り・レム睡眠」があります。心身の回復は主にノンレム睡眠の間に行われます。ノンレム睡眠を充分にとれるかとれないかで睡眠の質が違っていきます。
■睡眠不足が招く弊害
眠りが足りないと様々な弊害が起きます。
○ストレスがたまる
深い睡眠時間の間に、体の中では成長ホルモンがつくられ、細胞の新陳代謝が活発になります。成長ホルモンは体を作り替えると同時に疲労を回復させる働きがあり、その生成が足りないと疲労が蓄積しストレスの原因になる物質がたまっていきます。
ストレスがたまると怒りやすくなり、毛並みも悪くなります。
○肥満につながる
食欲をコントロールするホルモンも寝ている間につくられます。これが足りないと満腹中枢に異常をきたし適量の食事では満足が得られず、食欲が必要以上に増加します。食べ過ぎは肥満につながり、肥満は万病の元です。満腹感を得られないことはストレスの原因にもなります。
○成人病を招く
免疫システムの抗体も寝ている間に生成されます。免疫抗体が足りないと病気にかかりやすくなります。寝不足は交感神経にも悪影響を与え、体がいつも起きている緊張した状態を保つようになり高血糖や高血圧を引き起こします。それが続けば糖尿病、心筋梗塞、認知症の遠因になります。
■年齢によって必要な睡眠時間が違う
人も犬も成長期と高齢期には長めの睡眠時間が必要です。
○仔犬は18〜19時間
犬は大体1年で大人になります。それまでの間に体がめきめきと大きくなります。成長に必要なホルモンと栄養、細胞を作り出すために多くの睡眠時間を必要とします。
○成犬は10〜14時間
成犬の睡眠は8割が眠りの浅いレム睡眠です。野生の頃の本能が残っているため、いつでも危機に対応できるよう浅い眠りの時間が多いのです。その分、2割程度のノンレム睡眠をより良質なものにしてやる必要があります。
○高齢犬は仔犬と同様
シニア犬は疲労がたまりやすく、新陳代謝の能力も衰えています。体の健康を維持するためにより多くの回復時間が必要です。その分、睡眠時間も増えます。小型犬よりも大型犬の方がたくさん眠ります。
■睡眠を妨げる原因
人よりも多くの睡眠が必要な犬ですが、人に寄り添っている分だけ眠りを阻害される条件も揃っています。
○うるさい
話し声やテレビ、ラジオ。外からの騒音など、人が起きている間はなにかと物音に囲まれています。そんな中でも眠っているように見える犬ですが、本来敏感な生き物なので聞いていないようで音には微妙に反応しています。
○寝る場所が無い
寝る場所が決まっていないと落ち着きません。決まっていたとしても季節によって気温の変動が激しいとゆっくり寝ていられません。
○飼い主の不規則な生活リズム
飼い主の生活が不規則だと犬の生活リズムも乱れてしまいます。リズムの乱れは睡眠不足を招きます。
■良質な睡眠のための条件
良質な睡眠環境をつくるのは飼い主の役割です。
○静かな環境をつくる
生活音をなくすことは不可能です。ですからなおさら気を使って不要な音はなくします。音楽やテレビの音を流しっぱなしにしない、サッシを防音のものにするなどできる工夫はしてください。静かな環境は人間の交感神経・副交感神経にもいい影響を与えます。
○寝る場所を整える
ケージや犬用ベッドなど決まった寝場所を整えてください。居場所が決まっていると犬はリラックスします。季節によって選ぶことができるよう何カ所か用意できればベストです。難しい場合でもなるべく温度変化が少ないようエアコンなどで調整します。
○生活のリズムをつくる
犬は飼い主のとの交流が大好きです。自分が眠くても声をかけられれば起きてきます。仕事の都合で自身の生活が不規則だとしても犬には生活リズムをつくりましょう。
食事や散歩、遊ぶ時間は決めてください。夜は暗い場所で寝かせます。
自分の都合で夜中に起こしたり、食事の時間もまちまち、散歩に連れて行ったり行かなかったりではリズムが崩れます。リラックスして眠れなくなれば体調も崩れます。ペットのリズムをつくることで飼い主の生活にもいいリズムが生まれるかもしれません。
■まとめ
眠ることは重要です。犬が快適に眠れるかどうかは飼い主にかかっています。ペットは愛玩動物と呼ばれていてもオモチャではありません、生き物です。健康的に一生を送る権利があります。
健康的な生活に良質の睡眠は欠かせません。自分が癒やされたいからといって、時間を構わず犬を起こして相手をさせるような行為は慎むべきです。
生き物を飼い始めたのであれば、ペットに合わせて生活のリズムを見直してしまいましょう。犬が健康に過ごせる生活リズムは、飼い主にとっても健康なものであるに違いありません。