耳の病気でもっとも多い耳炎とは?
犬の耳の病気でもっとも多いのが、耳が炎症を起こす耳炎です。炎症をおこしている部位によって「外耳炎」「中耳炎」「内耳炎」とその病名が変わります。
主に異臭、痒みや皮膚の赤みといった症状が現れ、放置することで耳が聞こえなくケースもあります。
外耳炎は鼓膜の病気
外耳炎になる主な原因は耳垢が鼓膜や耳道内にたまることで、菌が繁殖して炎症を起こします。
本来ならば、耳垢は奥(鼓膜)から外へ移動するように排出されます。これを上皮移動といいます。
しかし、その鼓膜の上皮移動が正常に行われず、自浄作用がされません。
つまり、鼓膜が汚れている⇒上皮移動ができない⇒自浄作用ができない⇒外耳炎といったプロセスになります。
つまり、鼓膜の病気とも言えるのです。鼓膜が健康であれば外耳炎はおきません。そのため耳炎の予防には鼓膜の検診が必要です。
耳炎の種類
外耳炎
耳の穴の入口から鼓膜までの炎症を外耳炎といいます。また、耳炎の中でも最も多いのがこの「外耳炎」です。
外耳内に異物や腫瘤(腫瘍や非腫瘍性の病変)が存在し、炎症が悪化する場合もあります。ミミヒゼンダニなどの寄生虫が原因で炎症を起こすことがあります。
中耳炎
中耳の炎症を「中耳炎」いいます。外耳炎を何度も再発し、慢性化し重症状すると鼓膜が傷害されます。鼓膜が破けて炎症が内耳まで波及すると中耳炎になります。
耳介や耳道入口まで膿があふれ、悪臭がします。犬は痛みのために沈鬱になったり、攻撃的になったりします。外耳炎の治療をしても改善しない場合は、中耳炎が疑われます。早い時期に外耳炎を治療すれば中耳炎は防げます。
稀に鼓膜は破けていないのに、中耳腔に炎症がおこり膿がたまるタイプの中耳炎もあります。しかし、犬では希で猫に時々見られます。
残念ながら、もっとも普及している手持ち耳鏡(耳の中を覗き見る鏡)は、外耳炎と中耳炎を区別することはできません。したがって、中耳炎は診断されないケースがあります。難治性の外耳炎として治療されているケースもあり、中耳炎の治療が遅れてしまうことがあります。
内耳炎
内耳で起こる炎症です。多くの場合、外耳炎から中耳炎になり、さらにその奥の内耳がおかされて内耳炎になります。
斜頚や眼振になってやっと発見されるケースも少なくありません。
診断には、MRIやCTなど高度な画像診断が必要です。
早い時期に外耳炎を治療すれば防げる病気でもあります。
耳炎の症状
耳炎は早期発見早期治療することで、中耳炎や内耳炎を防ぎ、治療も簡単になります。耳や行動に異常が見られたら獣医師に見てもらいましょう。
初期症状:頭を振る、脚で耳を掻くなど
- 後ろ足で耳を掻く
- 頭を振る
- 頭を地面や壁にこすりつける
- 飼い主に「掻いて」と頭をこすりつける
- 耳の中の皮膚が赤く炎症を起こしている
- 耳垢の量が多い
さらに悪化すると耳だれ、悪臭がするように
耳炎の進行が悪化すると…
- 耳から液体が出てくる(耳だれ)
- 耳から出血する
- 耳から悪臭がする
- 元気がない(沈鬱になる)
さらに痛みが強くなると、性格が変わったかのように狂暴になることも。
- 頭を触られるのを極度に嫌がる
- 耳を触ろうとすると攻撃的になり噛みつこうとする
中耳炎や内耳炎はになると顔面麻痺や難聴になることも
中耳炎、内耳炎になると痛みや痒みの他にも下記のような症状が認められています。
- ドッグフードをこぼしたり、おやつが上手に食べれない(顔面麻痺)
- 首が常に傾いていたり、首が回らない(斜頸)
- 左右の眼の位置がズレている(眼振)
- 物音や呼んでも反応しない(難聴)
どうしてなるの?耳炎の原因
耳炎の原因は様々で複雑
耳炎の原因にはさまざまな原因があります。その原因は「素因」「原発要因」「永続化因子」に大きく分かれ、それぞれが複雑に絡み合って発症します。
耳炎になりやすい犬種
犬種によっても耳が炎症しやすいわんちゃんもいます。特に
- 耳道が狭い犬種
- 短頭種
- 耳道の毛が多い犬種
といった犬種のわんちゃんは、外耳炎や中耳炎になりやすいです。
耳道が狭い犬種
- チワワ
- ポメラニアン
- マルチーズ
短頭種
- フレンチ・ブルドッグ
- ボストン・テリア
- バグ
耳道の毛が多い犬種
- プードル
- シー・ズー
- シュナウザー
- アメリカン・コッカー・スパニエル
過剰な湿気
湿気も耳炎の原因になります。
特に日本の夏は高湿多湿で耳道内の温度も高温になり、菌が繁殖して炎症をおこしやすい時期になります。
また、小型犬は耳が小さいことや運動量が多いため、耳の中が高温になり耳炎が発症しやすくもあります。
ダニなどの寄生虫
ミミヒゼンダニ、ニキビダニ(毛包虫)、イヌセンコウヒゼンダニなど寄生虫により炎症を起こします。
他の犬から移されたり、散歩で草むらを歩くことで移される可能性があります。
アレルギーによる炎症
食物アレルギーやアトピーなどのアレルギーによって炎症してしまい外耳炎や中耳炎になることもあります。
近年では食事アレルギーの犬が増加してきています。今まで食べられてものもアレルギー反応がでるケースも。
アレルギーの場合は、耳だけでなく身体の皮膚が赤く炎症を起こしたり、下痢や嘔吐といった消化器の異常もみられます。
アレルギーにより発症しやすい犬種
- ミニチュア・ダックスフンド
- プードル
- バセット・ハウンド
- ゴールデン・リトリーバー
- ラブラドール・リトリーバー
- 柴犬
- アメリカン・コッカー・スパニエル
細菌の繁殖
耳の毛に細菌やカビなどの真菌が繁殖することで炎症を起こします。
鼓膜の外側面凹部の毛に細菌や微生物が付くと、通常の耳掃除では簡単に取り除くことができないので微生物の温床になります。
この微生物の温床は非常に厄介で、通常の耳掃除(洗浄)ではびくともしません。つまり、耳道の奥、鼓膜のすぐ前に蔓延しているのです。これを解決するには、ビデオオトスコープ治療が行われます。
この病気は治るの?耳炎の治療方法
動物病院や獣医師によって異なりますが、一般的な治療法としては耳鏡で診察し、耳のみの局所治療と全身治療とに分けられます。
検査方法
耳鏡
最も普及しているのがこの耳鏡です。耳の中を見ることで、外耳炎の原因を調べます。
しかし、耳鏡では、耳道の奥にある鼓膜を精査することができません。そのため、初期の中耳炎を見逃してしまうこともあります。
ビデオオトスコープ
耳鏡より的確な治療ができるのがビデオオトスコープです。この器具は、耳の中を見るだけでなく、洗浄液や異物の除去が可能です。
つまり、検査だけでなく治療も行えるのです。
耳鏡では死角になる部分をみることができるので見落としが少なくなります。
細胞診
細胞診とは耳の中の膿をスライドグラスに塗り、染色して、細菌やマラセチアを検出する方法です。すぐに結果が出るので、直ちに治療薬を選択することが可能です。
細菌培養
細菌培養とは、耳の中にいた菌を培養させ、どの菌が原因か判断する方法です。そのため5日から1週間ほど時間がかかります。
細胞診や細菌培養は初診の場合でも行われることも多くあります。
局所治療
もっとも多い治療法です。
1、外耳道内を耳垢液や洗浄液で満たした後、耳の後ろを軽くマッサージする。
2、耳の入り口に脱脂綿を当てて、犬の頭を揺らして耳道内の洗浄液を吸収し取り出する。
3、1と2を複数回行った後に点耳薬を投与する。
全身治療
1、局所治療を行っても改善しない場合は、全身的に抗生物質や抗真菌剤を投与する
2、さらに改善が見られない場合は、細胞診や細菌培養を行い、原因の菌の特定、投薬の再検討を行います。
飼い主ができることは?耳炎の予防7つ
①涼しく快適な環境を整えること
耳炎が長引く要因の一つは、耳道内の高温多湿です。特に日本は梅雨やじめっとした暑さなど高温多湿の気候です。そのため、梅雨や夏に外耳炎が急増します。とくに雨の多い梅雨の時期は菌が繁殖しやすい環境なので注意が必要です。
熱い夏はエアコンや扇風機などで温度を下げてあげましょう。
②シャンプー時に耳に水が入らないように注意する
シャンプーは体温を上昇させます。体温が上昇すれば耳の中の分泌物はさらにベトベトして細菌やマラセチアが繁殖します。
耳に水分が入るとますます活性化します。
そのため、シャンプーの後に耳炎が悪化することも少なくありません。
シャンプーをする時は耳に水が入らないように十分気を付けましょう。
③冬でも耳炎は活発するので注意すること
乾燥する冬ですが、コタツやストーブで耳の中が高温になります。耳炎があるときは、耳道や鼓膜の温度に気を配ってあげましょう。
④たち耳の犬種でも毛が抜ける時期は要注意
たれ耳の犬種は、耳の中が高温多湿になやすく耳炎になりやすいですが、たち耳の犬種でも耳炎になるので要注意です。
硬く真っすぐな被毛が抜け落ちて耳道に入り、鼓膜に向かって刺さる場合があるからです。
しきりに耳を掻く場合は、毛が外耳道内に入っている場合が多く、強い力で掻くと鼓膜が損傷することも珍しくありません。このタイプは洗浄することで悪化し中耳炎を引き起こすケースも多いので注意が必要です。
⑤雨の日は外出を控える。温泉やプール、海には要注意
耳の中に水が入ってしまうことで、菌が活性化し繁殖してしまうので、雨が降っている日はできるだけ外出を控えましょう。
同じように、温泉やプール、海で遊ぶことで耳に水が入ってしまうので、耳炎を引き起こしている場合は連れて行かないようにしましょう。
⑥アレルギーに注意すること。
幼犬時代から耳炎を発症するワンちゃんは、アレルギー疾患の場合がほとんどです。特に食事性のアレルギーが原因で耳炎を発症することが少なくありません。
子犬の時期から耳炎を繰り返している場合は、一度アレルギー検査を受けてみましょう。アレルゲンを特定することで、耳炎を予防することができます。
⑦アメリカン・コッカー・スパニエル、フレンチ・ブルドッグは要注意
もっとも耳炎を好発する犬種です。症状がなくても、定期的にビデオオトスコープによる検診を受けることで予防することが重要です。